どたばた山日記(その3)
敏音知岳にて●ゲタのじっちゃん (平成9年7月21日)

 山を歩いていると、いろいろな人との出合いが楽しい。今日登る敏音知岳の登山口は、宿泊し たホテル
望岳荘の道路挟んだ道の駅「ピンネシリ」の奥にある。天気は快晴、爽やかな朝である。
 道の駅の広い駐車場で、登る準備をしていると、カランコロンと響きわたる大きな音が近づいて来る。
ゲタを履いた白いランニングシャツに半ズボンという姿の70才位のおじいちゃんである。
大きなガラガラ声で話かけてくる。千葉県から来て、車で北海道を10日ほど旅行して帰るという。
いろいろと話をしているうちに、どうやらこのおじいちゃん、いかにお金をかけずに旅行を楽しむかとい
う究極のポリシーがあるらしい。リタイアする前は何か事業をやっていた風である。白い新車のクラウン
に乗っているので、お金は持っているようだ。話を聞くと…
 ホテルには泊まらず車で寝る。食事はコンビニの安いオニギリや弁当で済ませる。日帰り温泉は どこで
もあるので、きるだけ安い所を探し、無料の休憩室でゆっくり昼寝をして、ただのお茶を飲み寛ぐ。

また、北海道に来る時は、大間からフェリーを使うが、往復キップでJAF割引を使うと最も安いという。
「あなた達は、なぜこんなホテルに泊まるのか気が知れない」と言い大きな声で笑う。
 次にカーナビゲーションを見せてやると新車クラウンの前シートに座らせられる。このカーナビは地図
もいらないし、CDも聴けるので重宝しているという。新車のクラウンでこれを付けると価格が二十数万
円アップするらしい。私の住んでいる札幌市あいの里の地図も一瞬にして表示、ビックリする。そこに行
く道も表示される。なるほど便利なものだ。
最後にCDでクラッシクを聴かせてくれる。これまた、意表をつきビックリ。
「お金はケチる時は徹底し、かける所にはどんとかけるものだ」とこんこんと言われる。
 こんなことで楽しい節約術をたっぷり聞かせてもらい、敏音知岳に登るためお礼を言って別れた。登山
をして帰ってくると、また「カランコロン」と駐車場に響きわたるゲタの音が近づいてくる。
「道の駅に売っていた280円のいなりずしは安かったが、今日は湿度が高かったためコインランドリー
では乾燥機を長時間使い思わぬ出費をした」という。
 ケチというか究極の節約おじいちゃんと言うか、あきれる半面、納得して聞くばかりであった。
さぞかし奥様や息子さん夫婦から見放された状態で旅行をし、留守宅の皆さんは静かでほっとしているの
ではないかとお察しするのです。
 とにかく頭の中に「カランコロン」の大きな音が印象に残っていて、我々は「ゲタのじっちゃん」と
命名した。いくらでも話かけてくるので、やっとの思いで別れ車に乗ると、ゲタのじっちゃんは、また違
う人のところに「カランコロン」と行って話かけているのです。
 それから我々の山登りはホテルに泊まることは殆どなく、お金をかけないテント泊となったのは言うま
でもありません。

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